広域行政事務組合視察復命書
但馬ふるさとづくり協会〜但馬広域行政事務組合
○組合の概要
・兵庫県北部、但馬と呼ばれる地方の当時1市18町、現在は合併により2市14町で
構成。圏域人口20万人、2千平方キロ。兵庫県全土の4分の1。
・歴史は古く昭和23年の「但馬自治会」がルーツ。昭和44年但馬観光連盟設立、昭
和63年但馬理想都(りそうのみやこ)構想策定と歴史を経てきた。(表現は悪いが)「誰
も人が来ない地域に、人に来てもらおう」という発想で各市町が寄り合った。
・平成7年ふるさとづくり協会設立。上記16自治体に民間企業、団体あわせて40団
体で構成。人材育成、交流促進、自然環境保護、地域づくりのための調査研究といっ
た多彩な事業を展開。「人を呼び込む」ことを主眼。
・同年、但馬ふるさと市町村圏基金、7、8年度で30億円を設置(各市町が合計25
億円、県からは5億円)。その運用益で、事業を行っている。運用は地方債、国債の利
息。昨今銀行預金などでは、運用益は期待できない。
○広域計画の概要
・但馬ふるさと市町村圏計画と但馬地方拠点都市地域基本計画
高速自動車網整備で圏域30分の交通体系、人づくりを目指す教育文化の振興、地域
外からの移住者の受入れ、定住のための生活環境整備、長寿の郷を核とした福祉医療
整備、若者定住のための産業振興と地場産業育成、圏域内の交流の展開などが基本方
針として盛られている。
・テーマは「交流と共生の理想の都 “あしたのふるさと・但馬”」
○事業の詳細
・人材育成
@但馬ふるさとづくり大学
●但馬人(たじまびと)コース
年間10回、80人受講者で開催。愛知万博を総合プロデュースした泉眞也氏等を
講師に迎える。
こうした取組みは10年も以前から行われてきたが、受講者が(表現は悪いが)時間
つぶしに参加したのでは、真の人材育成とはならないことから、新たに「人材バン
ク」登録制度をHP上でスタートさせる。予算総額150万円。活動に対して1件
7万円を上限に実費を助成する制度。H18から。
●交流人(こうりゅうびと)コース
圏域外の人に呼びかけ、体験ツアーをしてもらう。
A地域づくり団体支援事業
●地域づくり活動団体助成金交付事業
たけの観光協会、但馬地域障害者就労支援連絡会、江野岩清水(ごうのいわしみず)
ト小江(こえ)神社の大ケヤキを育てる会、「ハスミのダンス」(ダウン症持つ蓮見さ
んが展開するダンス演技)豊岡公演実行委員会など、地域で活動する団体を育成する
のが目的。1団体15〜20万円を助成。
●但馬ミュージカル研究会助成金交付事業
50万円
・交流促進
@但馬ファンクラブ事業
交流人口を増やすことを目的。
会員には、但馬情報誌「T2」(但馬を2倍楽しむ、との意)や各市町の印刷物を送
付するほか、施設の優待割引も行い、リピーター、ファンを拡大。
過去10年間、会員数1200〜1300人で推移していた。会費を1000円払
って年に4回、情報誌を送ってくるだけというのでは魅力に乏しい。これを改善し、
そばのセットや地酒がもらえるコースを設定、これに参加すれば「モトは取れる」、
また協賛施設は客が増えて儲かる、というシステムとした。現在会員数は3000
人超、協賛施設は197を数えるに至った。
A但馬四季彩イベント事業
コウノトリ但馬空港フェスティバル、牛まつり、食文化まつりなど、但馬地方のそ
れぞれ散在する箇所を舞台に、イベントを企画。
B地域情報発信事業
●情報誌「T2」年4回、毎回10万部。圏域内に6万、圏域外に4万部を配布。
地元の「挑戦者たち」、マスコミで活躍する地元出身者によるエッセイ、但馬らしさ
を象徴するような人たちを紹介、但馬体験記など。
●ラジオ番組提供「おもしろ但馬木曜日」5分間番組で但馬情報を発信
●ホームページ「但馬情報特急」→後述
・自然環境保全活動
@川と森環境保全事業
サケ回帰促進事業、但馬の森環境保全事業、たじま環境学校の開催
・新しい但馬づくりのための調査研究
@但馬の魅力調査研究
ガイドマップ作成事業、歴史年表作成事業、山陰海岸国立公園魅力調査事業に助成。
環境と観光をマッチさせた事業を展開する。
・協会HP「但馬情報特急」
@多彩なコンテンツ、見やすい構成、最新の情報提供で一月のヒット3000件。
全国ホームページコンテストに応募して2位を獲得。
A豊かな内容、工夫の例
夏は海水浴、冬はスキーと情報を衣替え。
「カニ三昧」のボタンをクリックするとカニ、そば、地ビールなどのグルメ情報。
「農家民宿&どぶろく」では特区を活用。
「IJUターン」では空き家情報も載せて若者のターンを促したい。ブログを設け、
「住み着いた人の声」を紹介。
「日帰り温泉」には割引情報。
「そば三昧」では、圏域にある「出石そば」以外にもいろいろあるそばをどこに行
けば食べられるかを教える。
「但馬ビーフ」も、どこで買えるかを示す。
「但馬ふるさと特派員だより」は但馬大学に学んだ人材が担当。「どんと焼き」「麦
わら細工伝承館」などトピックスの話題と連携。
「たじまのしぜん」では子どもの質問に対して、情報通の先生が答えてくれる形式
も備える。最新トピックスの「こうのとり」「ハハコグサ」などの特集と連携。
Bランニングコスト
10万円/月。毎日更新。
HPには知識、技能、熱意が必要。
○感想
雪模様の豊岡駅に降り立ち、タクシーに乗るのもはばかれる、歩いて10分ほどのと
ころに同事務所はありましたが、われわれはタクシーに乗りました。
寒々とした外の光景とは対照的に、迎えてくれた担当者は熱弁をふるい、予定してい
た視察時間はあっという間に過ぎました。
但馬広域事務組合の中に位置づけられて活動している同ふるさとづくり協会での研修
は、われわれが広域行政事務組合として赴く一般的な視察とは内容を異にしていました。
広域行政という枠組みの組織が、こうした事業を展開するということもあるのだと、改
めてインパクトを受けました。そして担当者の語るその内容は、さらにまたわれわれを
カルチャーショックに陥れるものでした。
言葉の端々に挿入された苦労談を、いくつか紹介しておきます。
…銀行利息は0.04%。2億円あっても年8万円しか生まない。そこでアメリカ国
債は4.25%、税引き後でも3.3%で、1億円から330万円が生まれる。このこ
とを提案してもなかなか皆が乗ってくれなかった。さらに兵庫県債も買った。1.4%
で、2億から280万円が生まれている。
…これまで10年間、50万円ずつ助成してきたが、だからといって人材が育ったわ
けではなかった。やめようかとも思ったが、そのときたまたまテレビで放映されていた
東京・歌舞伎町の空き家対策の番組にヒントを得て、額は30万円に下げても存続させ、
工夫を凝らすことにした。
…ファンクラブ会員増加を図るために協賛をお願いしても、圏域で商売をしている
方々はある意味で商売気がなく消極的だった。しかし粘り強く協賛者を増やしていき、
あとは口コミでも広がるようになっていった。
また入会特典としてツーリズムマップなどをその場で進呈という制度とし、欲しい人
が欲しい場所ですぐ手に入れる仕掛けをこしらえた。このことは石川県では全県下で行
っているのに、当地の観光協会はなかなかやろうと踏み切らなかったところ、こちらか
らの粘りでようやく実現を見た。
さらにここで進呈するツーリズムマップの内容についても工夫をこらした。紙の情報
はいずれ古くなり、使わなければごみとなる。そこで最新情報は「QRコード」をマッ
プに印刷して、そこからケータイで得られるようにした。
…H18年度からはこれまでの「ふるさとづくり大学」を模様替え予定。「但馬学」を
展開してきたが、全国各地で人気の「検定」をやろうと思っている。タクシー運転手、
ガイドさん、主婦にいたるまで「但馬検定」を受けていただく。
などなど。
今回、視察先を選定するに際してあれこれと各地のHPを下調べしていくうちに、こ
の「但馬情報特急」というページにはたと目が止まりました。それが、今回の視察の大
体の方面づけを決定したと言ってもよいくらいです。
常日頃、ごみ焼却施設や汚泥処理、最終処分場といった視察内容が一般的であるとこ
ろ、そもそも広域行政という制度には、こうした可能性や方向性もあるのだと、これは
実地に視察訪問してみて初めて、実感として感ずるものでした。訪問して初めて、地元
中讃広域との比較、あるいは香川県や四国においてもこういう事業が展開されているの
か、その可能性は、などと真剣に考えてみることができます。
先に述べた鳥取東部広域行政でも、環境施策としての積極的な姿勢を学びましたが、
ここではまた趣が異なり、人材、観光、産業へと一般の地方自治体も舌を巻くほどの戦
略が練られ、それが実践されて、実効をあげているのでした。
それはほとんど、「商売」、といっていい領域ではないでしょうか。
行政にも経営感覚を、と、最近ではどこでも聞くようになりましたが、それは一種の
言葉の綾のような受け止め方があり、比喩的なものと読み過ごされがちですが、ここで
はまさしく、「経営」が行われています。
担当者は兵庫県からの出向の職員という立場とのこと。れっきとした「公務員」さん
でありますが、実績も語り口まで、それは「ナニワのアキンド」という言葉を髣髴させ
るものでした。
直接、ここでの研修成果を地元に持ち帰り、たちどころに役立つ内容は、ないかも知
れません。しかし、消極的に見積もっても、その手腕、発想、実現力は、これからの広
域行政組合職員としてのあり方を考えるときに、大きな示唆を与えるものであり、また
一般の地方行政職員の仕事への姿勢として、ここには学ぶべきものが多く、あまりにも
多くあります。さらに与えて言えば、わが中讃広域事務組合も今後何らかの新規事業を
展望しようという局面に立つことがあるとするならば、まさしくそこに、ここで学んだ
ノウハウはそのまま有用であるということができます。
地域おこしやまちづくり、人材育成や産業活性化が、将来、中讃広域の業務となる日
が来るのかどうかはわかりませんが、たとえば、丸亀、多度津という沿岸のまちから善
通寺、琴平の観光地を巻き込み、自然に満ちたエコランドのある地域までを広域の「ま
ち」として構想したときに、にわかに中讃広域圏の組合の存在意義は脚光を浴びる可能
性もあると思います。
説明の中で、担当者の方はこのようにも言われました。
この地域で観光用のパスを発行しても、行くに行けない、「バス」がないから、と。
そのような実態を笑い飛ばしながら、逆に観光戦略にプラス要因にさせていくところ
が、やはり「人」の手腕というものだろうと、つくづく感心させられたものです。
このインパクトが、まずは是非とも、広域事務組合の職員の皆さんにお伝えできたら
という思いです。出張旅費はないことでしょうから、せめてこの復命書をお読みいただ
き、あのホームページにショックを受けていただけたらと願っております。